ともだちからともだちへ


アンソニー・フランス さく
ティファニー・ビーク え
木坂 涼 やく

理論社

 

何もすることがない、何かを一緒にする約束もないし、だれも会いにきてくれない」と何日も家にひきこもったまま、ため息をついていたクマネズミのところに、誰かから手紙が届きました。

「きみはすてきなともだちです。きみとともだちになれてほんとうによかったと思っています。きみはたいせつなたいせつなともだち。それをつたえたくててがみをかきました。またね。!」

クマネズミはうれしくて何回も読みました。でもだれからの手紙か名前が書いてありません。「この手紙を書いてくれた人をさがそう」と、クマネズミはスキップしながら外に飛び出しました。

まずカヤネズミに尋ねると、嵐で屋根が壊れて直すのに忙しくて手紙なんて書いていないといいました。クマネズミはカヤネズミがそんなに大変だったことを知りませんでした。二人は一緒に屋根をなおしました。

次にカエルを訪ねました。するとカエルは足を折って動けないでいました。クマネズミはカエルがそんな目にあっていることも知りませんでした。クマネズミはカエルの買い物を手伝いました。手紙はカヤやネズミからでもカエルからでもなさそうです。

今度はコウモリに会いに行きました。すると「誰も手紙をくれないのに僕が手紙を書く訳がない」とクマネズミは追い返されてしまいました。

そのばん、クマネズミは、もっと早くコウモリに会いに行ってあげていたらよかったなと考えました。そして、本当の友達って何だろうと思いを巡らせました。

次の日、パーティの招待状をたくさん持ったクマネズミはカヤネズミとカエルを誘ってみんなに届けました。

最後に、コウモリの家に行くと、招待状と一緒にもうひとつ特別な手紙を郵便受けに入れました。

パーティの日、元気になったコウモリが手紙を片手にみんなのところにかけつけました。
特別な手紙には何が書いてあったのでしょうね。


☆この絵本の原作の題名は「FROM ME TO YOU」で2002年にロンドンで発行されています。日本では2003年に出版され、2013年2月には18刷になっています。
たくさんの読者を得た絵本です。
私がこの絵本を読んだ時、ちょうど病を得て、家にじっとしている時でした。最初の頃のクマネズミのように「パジャまんま」(朝からパジャマのままで一日中ぼんやりしていること)の生活でした。
クマネズミのように「何もすることがなく、だれも会いにきてくれない」なかで、どんどん心が縮こまっていってだれも自分のことなんか気にもかけてくれていないのではないか、自分はいてもいなくてもいい存在なのではないかなどと気持ちが落ち込んでいきます。
そんな、体だけでなく気持ちも動かない、「独り」でうずくまっているような状態の時、この本を読んだのです。
ですから、すてきな手紙を読んだクマネズミが、パジャマを脱ぎ捨て、服を着て顔を洗い、歯を磨いてひげの手入れをし、スキップをしながら差出人を捜しに飛び出していく心情に共感し力づけられました。
一歩外に飛び出せば、自分を必要としていた人や出来事に出会ったり、自分を気遣っていてくれた人がいたことを知ったりと、どんどん自分の世界が自由に広がっていきます。
そして人に求めるばかりだった自分から、自分から人に働きかける自分へと変わっていかれるのだと思います。
ではクマネズミにその一歩を歩み出させた力とは何だったのでしょう。
それは自分をともだちといってくれる人はだれ?自分を好きといってくれる人はだれ?その人に会いたい!という一途な思いでした。それは同時に「自分は忘れられていなかった」、「ともだちといってくれる人がいた」、「独りではないんだ」という確認ができた喜びでした。
誰だかわからない、目に見えない人からの「きみは大切な大切なともだち。きみがいてくれてよかったよ。」というメッセージ。一歩踏み出させたものはたったそれだけのことばでした。でもそれは「愛しているよ。あなたは愛されているんだよ」ということばの重みを伝えています。
人が生きていく時、自分が愛されていることを確信できることは一番大きな力になります。そしてそのことこそ、人を愛したり人を思いやったり、人のために奉仕したり、幸せな世界を創るために尽力したりしていく根っこになります。
「あなたから私へ」ではなく「私からあなたへ「FROM ME TO YOU」」と転換することによって、それが連鎖となって「ともだちからともだちへ」と続いていきます。
どんな状態でも、自分が必要とされ、愛されている存在だと感じた時、希望と力が沸いてきます。
クマネズミがそれまでの暗い部屋から光に満ちた外に向かって飛び出したように私もまた新しい明るい光りのある生活が始まるように思いました。

この物語りは読み終わるとたくさんの深い示唆や意味をくみ取ることのできる内容ですが、楽しくやさしく読み進んでいかれる絵本です。それは色の明るさ美しさ、動物たちの表情の豊かさ、自由に広がる画面の空間などが大きな役割をしていると思います。
この舞台は森なのか、都会なのか、田舎なのか、現代なのか、昔なのか、正体不明なのもおもしろい。
作者たちのセンスと力量の光る作品だと思います。

2020年07月30日