ふるやのもり

 

瀬田貞二 再話
田島征三 画

福音館書店


むかし、あるむらのはずれに、じいさんとばあさんがすんでいました。ふたりはりっぱなこうまをそだてていました。
さて、あめのふるあるばんのこと、うまどろぼうが、そのこうまをぬすもうと、うまやにしのびこみました。そして、うまやのはりにのぼって、こっそりかくれていました。ところが、また、やまのおおかみも、このうまのこをとってたべようとおもって、うまやのわらやまのなかに、ひっそりとかくれていました。
そうとはしらず、じいさんとばあさんは、
「こんなばんに、どろぼうでもきたら、こわいなあ」と、はなしていました。
はりのうえのどろぼうは、「このおれが、おそろしいのか」と、たわしのようなひげづらをくずして、にかにかわらっていました。
すると、ばあさんが、
「じいさん、じいさん、おまえは、どろぼうよりも、なによりも、いちばんこわいものは、なんじゃ」とたずねました。
じいさんは、「そりゃ、やまのおいぬの、おおかみじゃ」と、こたえました。
どろぼうは、おおかみにこられたらかなわんとおもって、からだをちいさくしましたが、わらやまのなかのおおかみは、とがったきばをがちゃがちゃさせて、よろこんでいました。
ところが、こんどは、じいさんが、
「ばあさん、ばあさん、おまえがこのよで、いちばんこわいとおもっているのはなんじゃ」と、たずねました。
すると、ばあさんはこえをひそめて、
「こんなふるいいえは、かぜふきゃふるう、あめふりゃしみる。おりゃ、どろぼうよりも、おおかみよりも、ふるやのもりが、いちばんこわい」と、いいました。
じいさんは、おおきなこえで、
「そうじゃ、そうじゃ。どろぼうよりも、おおかみよりも、このよでいちばんこわいものは、ふるやのもりじゃなあ」と、いいました。
さあ、これをきいた、はりのうえのどろぼうと、わらのなかのおおかみは、
「このよで、いちばんこわいという、ふるやのもりというもんは、どんなばけものだろう」と、きもがふるえるほどこわくなって、からだをちぢめておりました。



☆さてさて、この後、どろぼうとおおかみはどうなるのでしょうか?ふるやのもりとはいったい何なのでしょうか?
日本に古くからある民話を瀬田貞二さんが再話した絵本ですが、なんと登場する人(動物)たちが生き生きとしていることでしょう。
もともと笑えるお話が、瀬田さんの表現、言葉、そして田島征三さんの大胆かつユーモア溢れる絵によって、一流の落語家の寄席を見ているかのような絵本になっているように思うのです。まるで目の前でそのお話が起こっているかのような錯覚さえ、大げさではなく感じられる絵本です。
このお話の重要なポイントになる「お家の雨漏り」は現代ではあまり体験はできなく、子どもにはピンとこないことかもしれません。でも、感じることはきっとできるはず。田島さんの雨漏りの絵を見て、ただ「なんかおもしろそうだぞ」と思うだけでもこのお話に入り込んでいけるのではないでしょうか。実際に雨漏りするお家はそんな悠長なことは言っていられないでしょうけれど。
7月は多くの地域で梅雨が明けますが、雨の降る音がするちょっと暗い中、子どもと一緒に読んで楽しい気持ちになれる一冊です。

2020年08月04日