わにわにとあかわに


小風 さち ぶん
山口 マオ え
福音館書店

 

だれも いない だれも いない。
いえのなかは しずかです。
いねむり していた わにわにが
きんいろの めを あけました。
 ぎろり。

ずる ずり ずる ずり
 だれもいないな。
ずる ずり ずる ずり
 しずかだな。

”クィ…”
 だれ?

でてきたのは、あかい わに。
わにわには だいどころへ いきました。
あかわには カシャカシャ ついてきました。

たべるかな?

たべたぞ たべたぞ

わにわには
おふろばへ いきました。
あかわには
カシャカシャ ついてきました。

おゆを ためます。
じゃばじゃばじゃば じゃばじゃばじゃば

およぐかな?

ぴしっ!しゅるるん

「オー!ララー」

わにわには もぐります。
あかわにも もぐります。

おふろから でると、
ならんで からだを ふきました。

 ぐにっ ぐにっ ぐなっ ぐなっ
 くにっ くにっ くなっ くなっ

それからくちをあけて
ひなたぼっこをしました。

とぷとぷ
ゆうひが しずみます。

いちばんぼしが ひかりました。

あかわには カシャカシャ
かえってゆきました。


☆小風さちさんと山口マオさんのコンビで描かれる「わにわに」シリーズの一冊です。
この「わにわに」シリーズは私も大好きな絵本です。
文中にたくさん出てくる擬音語擬態語の妙とわにわにの個性、版画の色彩の鮮やかさとユーモラスさ、それらが本来のワニという動物が持つ恐ろしいイメージとのギャップで深みを持ち、さらに面白く感じさせているように思います。
そもそもワニが人間の家で人間の生活をしている時点でナンセンスな訳ですが、だからと言ってこの絵本のわにわには普段から服を着ていたり2本足で歩いたりするわけではなく、よくある動物を使ったキャラクターのような見た目の擬人化はあまりされていません。堅そうな肌を見せつつはいつくばってずりっずりっと動く様はワニのまま。
でも、そうやってわにわにが歩く場所は板張りの廊下だったり、ハサミを使って怪我をして泣きながら包帯を巻いたり、エプロンをつけて料理をしたり、けん玉をしたり、コップに牛乳を注いで飲んだりと、普通に人間の行動をとる、ワニというキャラクターを大事にしたやりすぎない擬人化がお話を楽しくさせています。

さて、今回のわにわにでは、小さなワニのあかわにが登場します。
突然の来客であるあかわにに戸惑いながら、わにわにはあかわにのお世話をしたり、様子を観察したり、一緒に活動したりします。
そして日が沈むとあかわにはどこかへ帰っていってしまいました。
この様子ってどこかで見たことあるな、と思っていたのですが、今年の夏休みに「ああ!」と判りました。
夏休み、お盆で親戚が集まって子ども同士が久しぶりに顔を合わせるとちょうどこんな様子になりませんか?
普段一人っ子だったりする大きいお兄さんが、訪れてきた小さい子に戸惑いつつも、自分の後についてくる小さい子をお兄さんぶって面倒を見たり一緒に遊んだり。そして夜になってそのいとこが帰ってしまうとまた静かな家に。なんとなく寂しいようななんとなくホッとしたような、そんな気持ちになりながら…
もしかしたら、小風さんや山口さんもそんな体験を通して、このお話を作ったのかもしれませんね。
こんな風に考えたら、何だかわにわにがもっと可愛く思えてきました。

わにわにシリーズは他にも、『わにわにのおふろ』『わにわにのごちそう』『わにわにのおでかけ』『わにわにのおおけが』があります。
どれも楽しいお話です。

2020年08月19日