うさぎのおうち


マーガレット・ワイズ・ブラウン文 ガース・ウイリアムズ絵
松井るり子訳
ほるぷ出版

 

春、こうさぎが自分の家を見つけて歩きます。
こまどりは枝の上に家があります。でも、ここだとこうさぎは落っこちてしまう。
かえるの家は沼地の湿った泥の中です。こうさぎだったら沼の底に沈んじゃう。
グランドホックは木のウロに棲んでいます。でもこうさぎは入れてもらえない。
こうさぎがかけてかけていくと、うさぎに出会いました。
「あなたの家はどこですか?」とたずねると
「ここですよ。この岩陰の石をくぐった穴の中が私のお家。」とこたえました。
そこでこうさぎが「入っていい?」といいました。
するとうさぎは「ええ」とこたえてくれました。
ここがこうさぎのお家になりました。


☆何ときれいな絵本でしょう。
1ページごと、まるで1枚の絵画のようです。
春の空気が漂ってくるような美しい背景、それに鳥や動物、カエル、蝶など春になった喜びのなかで生き生きしい生命力にあふれて動いています。
ストーリーはシンプルで、こうさぎの家さがし、すなわち自分探しの物語ですが、詩のような短いことばが、絵とぴったり合って、読み手に必要以上のことを伝えてくれます。すばらしい絵本だと思います。
それもそのはず。なにしろこの絵本は子どもの心を奥深くまで知り尽くしていたマーガレット・W・ブラウンの文と、「しろいうさぎとくろいうさぎ」のガース・ウイリアムズの絵が一体となった傑作なのですから。
それに、訳もこの2人の世界を本当によく現した美しい文章です。
「えだがめぶき 
     はながひらき
        ひながかえる
           そんなはるに
              こうさぎがみちをかける」
歌いたくなるような躍動感があります。
このストーリーと絵とことばがうまく解け合って、春の喜びと生命の輝きを私たちに感 じさせているのだと思います。
ガース・ウイリアムズはこの後、名作「しろいうさぎとくろいうさぎ」を作っています が、その絵本はまるでこの「うさぎのおうち」の二匹のうさぎたちのその後を描いているような感じがするのですが思い過ごしでしょうか。

長い冬が終わり、すべての生き物があたたかい日の光のなかで動きだし、自然を謳歌し 生命力を輝かします。
 冬が長ければ長いほど、寒ければ寒いほど、その春の息吹はあこがれであり希望です。
その希望のなかで、人は新しい居場所を求めたり、自分探しを始めたり、他の人と一緒に生きたくなったり、大きくなりたいと願ったりします。特に小さい子どもたちは、その思いが顕著です。神様がくださったこの自然の恵みに呼応してすべての人々が幸せを希求し、自分の居場所を見つけられたらどんなにいいでしょう。

2020年08月28日