あかいぼうしのゆうびんやさん


ルース・エインズワース 作
河本 祥子 訳/絵

福音館書店

 

庭の動物たちは、手紙を書いたりもらったりするのが大好きでした。

でも郵便やさんがいないのでとても不自由をしていたのです。

そこで手紙を配達してくれる郵便やさんを決めることになりました。

子猫、リス、犬が自信たっぷりに立候補しました。

コマドリも郵便やさんになりたかったのですが、みんながとても立派に見えたので黙っていました。

けれど、郵便やさんは3人もいたら多すぎます。

そこで代わりばんこに郵便やさんをやってみて、誰が一番いい郵便やさんになるか試してみることになりました。

まず子猫が雌鳥に手紙を配達します。

でも子猫は鳥の羽を捕まえようと飛び上がって、手紙をどこかにやってしまいました。

次はリスです。

リスはカシの木に棲んでいるフクロウに手紙を届けます。

ところが濡れた枝に手紙を置いたまま、大好きなハシバミを食べていて大事な手紙をビショビショにしてしまいました。

最後は犬の番です。

犬は土手に住んでいるノネズミに手紙を届けることになりました。

でもいつも骨を埋める樫の木の根元に来ると、土を掘り返して手紙をどろだらけでクシャクシャにしてしまったのです。

3人とも郵便やさんにはなれません。

みんなが集まって相談している時、コマドリが木に止まっているのに気が付きました。

コマドリは胸をはって「郵便やさんになりたい」とみんなにいいました。

そしてコマドリは手紙をどこへでも、間違いなく、そして親切に配達しました。

すばらしい郵便やさんのコマドリにノネズミのおばあさんは赤い帽子を作ってくれました。コマドリはそれがとても気に入って赤い帽子をいつもかぶって配達しています。


☆福音館書店から10月に出版された新刊本です。
しかし、このおはなしはイギリスの作家、ルース・エインズワースが1970年に発表したもので、今から40年以上前の作者の生きた時代背景が描かれています。
その雰囲気をそのまま伝えてくれているのが、河本幸子さんの絵です。
見開きの最初のページには、紙面全体に動物たちの生活の拠点である森をバックにした広い農場と農家、そして庭に棲む動物たちの居場所が描かれています。
牧歌的なゆったりとした中に人と動物が共存しているあたたかさを感じることができます。そしてこれからどんな話が始まるんだろうとワクワクしてきます。
ストーリーは動物たちの世界の多少シニカルな物語ですが、ここに登場する動物たちの組み合わせが庭に棲む動物、森に棲む動物、空に棲む鳥、など多様でおもしろい。
そしてそれぞれの動物の特徴を実によくとらえて表現しています。
けれども、それらの動物たちが自分の目の前にいる実際の子どもたちの個性とよく重なって見えてきます。
コマドリが、他の動物たちに圧されて、「自分も郵便やさんになりたいよ」と言えないという場面も、「いる、いる。こういう子が。」と思います。
でもそんなコマドリが状況や人の動きをじっと観察していて、自分が必要とされた時に胸をはって「わたしがやります」といいきることができるようになっていくところに子どもの成長や自己容認の姿を見いだすのです。
動物たちの手紙を欲しい、書きたいという欲求から始まって、ことがらや解決の方法をみんなで考え合い一番いい方法をみつけていくという過程も、何やら子どもたちの生活のなかに見られるような気もします。
最後のページには、最初の見開きと同じ絵が描かれています。
でもひとつだけ違うところがあります。
子どもといっしょに見つけてみてください。

2020年09月02日