やぎのアシヌーラ どこいった?

渡辺 鉄太 さく
加藤 チャコ え
福音館書店
ものぐさのスタマティスじいさん、ぼうぼうになった庭の草をどうにかして楽に刈る方法はないものかと考えて、小さな雌ヤギのアシヌーラを町の市場で買ってきました。
アシヌーラは働き者で、たちまちのびた草をすっかりきれいに平らげました。
そこにやってきた農夫は、ビール3本とひきかえにアシヌーラを貸してもらい黒いちごのやぶをきれいにしてもらいました。
そこに羊飼いがやってきて、ひつじかいパイとひきかえにアシヌーラを借り枯れ枝の皮をばりばり食べてもらいました。
今度は果樹園の男がやってきてアシヌーラのふんを肥料にしたいとりんご一樽とひきかえに借りていきました。
そこへチーズつくりのおばあさんがやってきて、うちの雄ヤギと一緒にしたら子やぎをはらんでお乳をたくさん出すだろう、とチーズとひきかえにアシヌーラを借りていきました。さて、いつの間にかまた庭が草ぼうぼうになったスタマティスじいさんはようやくアシヌーラのことを思い出しました。
「アシヌーラはどこいった?」ときくと農夫は「羊飼いに貸したよ」。
でも羊飼いのところに行っても、果樹園にも、アシヌーラはいません。
やっとチーズつくりのおばあさんにたどり着きました。おばあさんは「チーズもたんとできたことだしヤギは返すよ。だけどヤギがスタマティスじいさんのものならばこのチーズも、ビールもパイもりんごもタスマティスじいさんのものさ」といいました。
スタマティスじいさんはほくほく顔。
それからもアシヌーラはあちこちに借り出されてはおみやげを持ち帰ってきたそうです。
☆この絵本は福音館書店「こどものとも」10月号として出版されました。
作者の渡辺鉄太さんと絵を描いた加藤チャコさんはご夫婦で、今オーストラリアに住んでおられます。
なるほど、このおおらかなお話といい、ユーモラスなそしてしゃれた美しい色彩のやわらかみのある絵といい、牧歌的とでもいいましょうか、どことなく雄大な自然のなかの生活観が滲み出ています。
ご夫妻の住むメルボルンの田舎ではヤギの貸し借りは珍しいことではないそうで、借りたお礼は絵本のなかのようにお金ではなく生産物などで物々交換することが盛んだとのこと。
現代の都市化された日本ではこういう物語りは出て来ないかもしれませんね。
日本でもかつて地方ではヤギをかっている家がたくさんあって、草原や河原などに繋がれて草を食んでいました。その絞り立てのお乳はあたたかく濃厚で甘みが強く、ちょっと青臭かったのを覚えています。
子どもにとって、ヤギは大きくもなく小さくもなく、ちょうど扱いやすい(でも後を向くとドンと押し倒されたりしますけれど)また感情移入ができやすい動物で、よく子どもがその世話をしていたように記憶しています。
今ほとんどヤギをかっているという話はきけなくなりました。
この絵本のアシヌーラを通して描かれた、豊かな大地に暮らす人々のコミュニティと生活をある意味でなつかしくまた、うらやましく感じながら、次々に展開していく繰り返しのものがたりの心地よさと大地の匂いが伝わってくるような絵のなかで絵本の醍醐味を楽しませてもらいました。