ひとりになったライオン


夏目 儀一 文・絵
福音館書店

 

ライオンは百獣の王といわれ、サバンナに君臨する動物のなかで無敵を誇る動物だと子どもの頃からずっと思っていました。しかしいろいろな本やドキュメンタリー放送などでその生態が詳しく紹介されるようになって、ライオンの知られざる新しい面が分かってくると、ライオンも大変なんだな、と思うようになりました。

特にオスライオンの立場や働き、地位確保の闘争、放浪ライオンの存在など、厳しい自然のなかでの生きるか死ぬかの生きざまを知ると、ライオンが決して百獣の王としてあぐらをかいて安穏と生きているのではないということに思い至るのです。

「若い ライオンが かぞくを はなれて、ひとりで くらすことになった。」で始まるこの絵本はそんな若い放浪ライオンのお話です。

若いライオンは何もわかりません。何も出来ません。いつもおなかをすかしています。

ようやく見つけたシマウマのこどもに襲いかかろうとしても、逆に大人のシマウマたちに蹴られ、かみつかれ満身創痍で退散です。

これは「弱いライオン」のお話なのです。

 

子どもたちは、ライオンが大好き。動物の名前を言い合う時、一番初めに「ライオン!」が出てきます。子どもたちは「ライオンは強い!」「誰にも負けない!」といいます。

ですから獲物としてねらいを定めた子どものシマウマが逃げる途中で石ころにつまづいてころんだ時、子どもたちの目線は「あぁ、シマウマが危ない!食べられちゃう!もうだめだ!かわいそう」と弱いシマウマに向けられて同情的です。

しかし次の瞬間、シマウマのお母さんに顔を蹴られ、お父さんには鼻をかみつかれ情けない顔で逃げていくライオンを見て、今度は弱いライオンに同情を転換します。

とぼとぼとサバンナを歩いていくおなかをすかせたひとりぽっちのライオンを子どもたちは複雑な表情で見ています。

でも最後に作者は「こうして、わかいライオンはしっぱいしながらもつよくなっていく。やがて おとうさんのように むれを つくって かぞくを もつのだ」といっています。子どもたちはここで未来に続くはるかな時間を希望と共に感じるのだと思います。

描かれた美しい風景や色彩、リアルな動きの描写やライオンの表情の豊かさは子どもの想像や共感を膨らませ、自然の驚異の世界にますます魅せられることでしょう。

2020年05月21日