おやすみなさい フランシス


ラッセル・ホールバン ぶん  ガース・ウイリアムズ え
まつおか きょうこ やく
福音館書店

 

7時、あなぐまのフランシスの寝る時間です。
フランシスはおとうさんにおんぶしてもらって部屋にいきます。
キスをしておとうさんとおかあさんは出ていきました。
でもフランシスは眠れません。目をつむってもちっともねむくならないのです。
歌を歌っているうちに、部屋の隅にとらがいるような気がしてきました。
おとうさんとおかあさんに言いに行くと「きだてのいいとらだから大丈夫」とおとうさんに言われて部屋にもどったものの、今度は大男がいるように感じました。
居間にいってそのことを話すとおとうさんは「その大男に何の用事か聞いてごらん」といわれたので部屋にもどりよく見るとそれは椅子にかかったガウンでした。
ベットにもどったフランシス、今度は天井をながめているうちに割れ目からこわいものが出てくるような気がしておとうさんを呼びにいきました。
おとうさんは見に来てくれましたが「心配ならばみはりをたてたらいい」といいました。
フランシスはくまちゃんとかわりばんこに見張りをしていましたが今度はカーテンが風に揺れているのが気味悪くなっておとうさんのところにいきました。
おとうさんもおかあさんも寝ていました。
目をさましたおとうさんに「何かがカーテンを動かしているの」というとおとうさんは
「あれは風の仕事なんだ。おとうさんは会社にいく、それが仕事なんだ。おまえは早く寝て明日の朝早く起きて幼稚園にいく。それが仕事だよ。もしおまえがたった今寝にいかなかったらどうなるかわかるかね?」「失業する?」「いいや」「おしりぶたれる?」「そのとおり!」
フランシスは「おやすみなさい!」といってもどると、窓をしめベットにもぐりました。
するとドシン!バタンと窓のところで音がしました。「こんどこそ大変」とおとうさんに言いに行きましたけれど、部屋のドアのところで考えました。そして、何もいわずに部屋に戻ると毛布を被って「なんだろう」と考えました。
そっと見ると、それは窓に当たっているガの羽の音でした。
その音がまるでおしりをぶたれているようにきこえました。
フランシスは横になって目をを閉じると疲れてそのままおかあさんが起こしにくるまでぐっすり眠りました。


☆夜眠る前に、子どもが「この本を読んで」と持ってくると、「わぁこの本かぁ。ちょっと疲れるぞ」と覚悟をしたのがこの「おやすみなさいフランシス」でした。
でも子どもはこの本が大好きで、大人になった今も愛着をもっているようなので、あのころ一生懸命読んでやってよかったかなとも思うのです。
私自身もこの絵本は印象が強く、いつも心の底にあり続けているのですが、なぜか今までのホームページのこの欄には取り上げていません。

何故なのか、と聞かれるとちょっと困るのですが、ひとつにはあらすじを書くのに苦労しそうだったからです。
今回も上のあらすじの部分は大分はしょってあって、大事なことが伝えられていないのではないかと思います。
このものがたりは、あなぐまの家族のある夜の出来事が細かい描写で語られています。
フランシスがなかなか眠れないなかでひきおこすおとうさんおかあさんとのやりとりはどこのお家でもあるように思います。
フランシスが次々にいろいろ理由を訴えてきてはおとうさんおかあさんを煩わせるのをまるで自分の子どもがそうであるように思い、だんだんはらだたしく思ってしまうのもこの絵本が実生活そのものの描写であることの証拠でしょう。
しかし、この生活の短い一端のはなしのなかで、親と子どものあり方や、大人と子どもの生活のありようなどがものの見事に描写されていて、新鮮な感動を与えてくれます。
特におとうさんのフランシスに対する関わりが、充分受け入れるところと、きちんと線を引くところが明確で、「大人の対応」と「父の存在」を強く感じさせてくれます。
子どもの側だけに立っていいなりになることが子どもを大切にしていることではなく、子どもには子どもの生活があり大人は大人の領分があるということ、社会の秩序といったことを子どもに伝えていく役目がおとうさんにはあるのだということをこの本から読み取ります。
また、フランシスが窓がドシン!バタン!となった時、すぐにおとうさんおかあさんのところに飛んでいきますが、その部屋の前で立ち止まり、考えた結果いわないことにするという場面があるのですが、それはある意味の自立、自律の芽生えと育ちなのでしょう。
受け入れられることと、返されることのバランスのなかで子どもは大きくなっていくのだと思います。
それらのひとつひとつのやりとりや文がとても大切なものに思えて、筋書きだけではとうてい語り切れない本なのです。

また、もうひとつの理由は、この本は絵が語っている部分が多いということです。
文字では説明できないことを絵を見れば一目瞭然にわかってしまうという絵本なのです。
絵は、ガース・ウイリアムズが描いています。
あの「しろいうさぎとくろいうさぎ」の作者です。
実在感のある動物の描き方に加えて、その表情の何と豊かなこと。
フランシスが寝室に行ったあと、居間にいるおとうさんとおかあさんはテレビを見てお茶を飲み、ケーキまで食べている!なんて場面はもう圧巻です。
眠っているおとうさんがフランシスに起こされてやりとりをする場面では、その表情からどんな声でどんなふうに語っているかが想像できてしまうほどの表現力。
この絵本は絵と文が一緒になってものを語っているのです。

ですからこの絵本はどんなに言葉で説明してもしきれないという訳です。
そんなわけですので、ぜひ一度、ゆっくりとお読みいただけたらうれしいです。

2020年09月10日