おはなをどうぞ



三浦太郎

のら書店

 

メルシーちゃんはおかあさんにあげる花をたくさんつみました。
お家へ急いでいるとうさぎがやってきて「すてきなお花ですね」といいました。
メルシーちゃんは「おかあさんにあげるお花だけど少しだけならおすそわけ。お花をどうぞ」といってお花を渡すとうさぎは大喜び。
つぎにやってきたのはライオンです。
ライオンにも、「お花をどうぞ」とおすそわけ。
ライオンは大喜び。
次はキリンがやってきました。
メルシーちゃんは「少しだけならおすそ分け。お花をどうぞ」とあげました。
キリンも大喜びしましたが、メルシーちゃんの手にはもうお花が一本しか残りませんでした。
そこにゾウがやってきて「すてきなおはなですね」といいました。
メルシーちゃんはゾウさんにも1本しかないそのお花をあげてしまいました。
手には1本のお花もありません。
メルシーちゃんはとうとうお花を全部あげてしまったのです。
「おかあさんにあげようと思ったのに・・・・・」

メルシーちゃんはお家に帰っておかあさんにいいました。
「おかあさんにお花をたくさん摘んだけど、全部あげてしまったの」
するとおかあさんはいいました。
「いいのよ。おかあさんのお花はね、メルシーちゃん、あなただもの。ありがとう」


☆三浦太郎さんの美しいそしてやさしい絵本です。
メルシーちゃんのおかあさんを思う気持ち、そしておかあさんのメルシーちゃんに対する思いが「おかあさん」と「こども」の存在を的確に表していて、読み終わった時にほんわりとしたやわらかい幸せと喜びで包まれます。 
子どもはおかあさんが大好きです。おかあさんに代わるものはありません。
自分の喜びはおかあさんの喜びと一緒だということを疑いませんし、おかあさんを喜ばせるために一生懸命になります。
メルシーちゃんはきれいなお花をおかあさんにあげたらきっと喜んでくれるに違いないと確信して花を抱えきれないほどいっぱい摘みます。
けれども途中で出会うともだちにお花をおすそ分けして相手に喜んでもらっているうちに手元には花が一本も残らなくなってしまいました。
おかあさんにあげたかったのにとしょげながら帰ると、おかあさんは
「お花はなくてもメルシーちゃんが私のお花なのよ」と喜ぶのです。
きっとおかあさんは、たくさんの人に喜びをおすそ分けした我が子のやさしさや成長が何よりの大きな喜びだったことでしょう。
そして、そんな我が子を心からいとおしんだのでしょう。
子どもにとっておかあさん、おかあさんにとって子どもは何よりの美しい花なのだと思います。
三浦さんの絵本のもつ色の美しさとハイセンスな造形からあふれる豊かな表現によって、絵だけ見ていてもあたたかい物語がうかんできてしあわせを感じます。

2020年09月11日