きんぎょのトトとそらのくも


えとぶん にしまき かやこ

こぐま社

 


ひとりぽっちのきんぎょのトトは金魚鉢のなかでいつも空を眺めていました。

きんぎょの雲がみえた時、「あの雲がきっとともだちなんだ」と思ったトトは無性に空に行ってみたくなりました。

そんなトトに小鳥が「元気に行っていらっしゃい」と赤い風船をもって来てくれました。

ふわぁと空に浮かんだトトは、パンの雲やゾウの雲に訪ねながら金魚の雲を捜しました。やっと金魚の雲たちのところについたと思った時、その雲はどんどん形がくずれていって真っ黒な雲だらけになってしまいました。

「ぼくのともだちはどこにいるんだろう」とトトは雨の中を夢中で泳ぎました。

ピカッ ドッシーン!かみなりです。

風船が割れてまっさかさま。

気が付くとトトは水のなかにいました。

まわりにたくさんの魚たちがしんぱいそうに取り囲んでいました。

トトは広い池でたくさんのともだちに出会いました。


☆にしまき かやこさんのやさしい作品です。
子どもが、今までの居心地のよい囲みのなかから、外界の未知の世界に憧れ、自分の思い で飛び立とうとする旅立ちの世界が描かれています。
金魚鉢のなかからいつも眺めていた空に現れる雲たちをトトは本当のともだちだと思ってどうしても会いたくなります。
小鳥に風船をつけてもらって空に飛び上がり、やっと会えたその雲たちは実は実態のな いものでした。
混乱のなかで、池に落ちたトトはやっと形がくずれたり消えたりしない本当の友だちに会うことができたのです。
ある年齢になると子どもは自然に自分の世界を広げたい、友だちと遊びたいという欲求をもちます。
そして、さまざまな援助の手を差し伸べられるなかで、自分なりの葛藤や混乱を経てよ うやく自分の世界を獲得していくのだと思います。
子どもがそんな成長をしていくために必要なことは、まずは安定した金魚鉢のなかでゆったりと外界に興味関心をもち願いを実現させようとする意欲をもてることかなと思います。
この絵本のタイトルが「きんぎょのトトとそらのくも」となっているのはそんな時空のことをいっているのかも知れません。
それからその思いを後押ししてくれる「小鳥の風船」が必要です。
小鳥は赤い風船を渡しながらこういいます。「元気でいっていらっしゃい」と。
そして、トトが池でたくさんの魚たちと遊んでいる様子を遠くから見守るのです。
子どもが旅立ちをする時、「大丈夫だよ」とそっと背中を押してやりずっと見守る存在が不可欠だと思います。
その存在とはおかあさんやおとうさんであり、私たち保育者も同じだと思います。
私たちは子どもが自由に自分の思い描く世界に遊ばせ、安定した信頼関係のなかで旅立ちにふさわしい手助けをし、それをずっと見守っていきたいと願います。 
そして、幼稚園という広い池で子どもたちが友だちと自由にのびのびと気持ちよく泳ぎまわれるよう心を込めて保育をしていきたいと思います。

2020年09月15日