あいつもともだち


内田麟太郎 作
降矢 なな 絵

偕成社

 

森も寒くなってきました。

キツネとオオカミは冬ごもりに入るクマやヤマネたちとしばらくお別れです。

みんなと「それじゃあ 春までな」といって挨拶をしました。

でもキツネはヘビだけには声をかけられませんでした。

あの長い体に抱きつかれた時など、ゾゾゾーとしてしまうくらい苦手だったのです。

森は雪になりました。

キツネは雪をぼんやり見ている時も、オオカミとスキーをしたり年賀状を作ったりして楽しい時も、挨拶をしないで別れたヘビのことが気になってしかたありませんでした。

ヘビは今頃ひとりぼっちでさびしい思いをしているんじゃないだろうか。

雪がやんだある日、オオカミとキツネはソリにのって冬眠中のともだちのお見舞いにでかけました。クマやヤマネも気持ち良さそうに眠っています。

キツネはヘビの家をのぞきました。

キツネは眠って入るヘビに「ごめんね」というと「春になったら、ね」とヘビの顔をなでました。でもゾゾゾーっとはなりませんでした。

ヘビはその時、夢を見ていました。

春になって原っぱに出て行ったら、だぁれもいないというさびしい夢を。

春がきました。

冬眠からさめた動物たちがまた一緒になりました。

でもヘビだけは、さびしい夢の続きになるような気がしてなかなか外に出ていかれませんでした。

みんながいなくなってからそっと外に出ると、その時、目の前にキツネが「やあともだち」と笑って待っていたのです。オオカミも一緒です。

「ヘビさんまっていたんだよ」。

キツネとオオカミとヘビはしっぽを巻き付けながら大きくふりました。


☆この絵本は「キツネとオオカミ おれたち ともだち!」シリーズの1冊です。
子どもたちはこの絵本がとても好きで、よく「読んで」といって持ってきます。
このシリーズはコミカルな絵(色の美しさ、生き生きとした表現は素晴らしい)や物語りの展開が「楽しい」「おもしろい」絵本たちではありますが、繊細な心の機微や人間の本質や人との関わりについて実に深いものを与えてくれます。
今回とりあげた「あいつもともだち」もキツネの心理のとらえかたや変化が実に巧みに表現されていて、だんだん自分自身を投入していきます。
誰でも苦手な人、嫌いな人っていますよね。
ちょっと近寄りずらい人、いつも不愉快になる人、心を逆なでされる人、腹立たしい人。でも逆に、そういう人って「心にひっかかる人」「気になる人」でもあります。
自分の心によりインパクトが強い人ともいえます。
キツネは、ヘビが苦手でお別れの挨拶をしませんでした。
でもそのことが自分の良心の呵責となってずっと心にひっかかります。
何をしていてもヘビのことが心のなかにあって、だんだん自分が挨拶をしなかったことでヘビが寂しがっているのではないかというところまで思い至ります。
そうなってくると、前にはゾゾゾーとしたあのヘビの体の感触も嫌だと感じなくなってきました。
ヘビのことを思い続けることでヘビのことをより深く知ることにつながり、遠くから毛嫌いしていた自分自身のことをも冷静に見つめることができるようになってきたのだと思います。
そして、春になってヘビと会える時を心待ちにするようになるのです。
こういう心理の変化っておもしろいし本当にそのとおりと思ってしまいます。
キツネの心根のやさしさがまずあってこの物語りは成立する訳ですが、「人と共に生きる幸せ」「人と和解する喜び」ということが冬から春という寒さから暖かさへの移行を背景に描かれています。
そして、それを支える友達、キツネの心情を深く理解してあたたかく見守るオオカミの存在はとても大きいと思います。
私たちも冬眠している間にさまざまなことに心を巡らせ、ひとまわり大きくなって春を迎えたいものです。
子どもたちにも、さまざまな冬の季節があります。
でもその冬を大切に過ごすことによってうれしい春を迎えられることを信じて、オオカミのようにじっくり寄り添って見守っていきたいと思います。

2020年09月16日