きつねとかわうそ


梶山 俊夫 再話・絵

福音館書店

昔むかし、山のキツネとふもとの川のカワウソが道でばったりと出会った。

キツネは「ごちそうの呼び合いをしよう」とカワウソに誘いをかけた。

次の日、キツネはカワウソの家にやってきて、ごちそうをよばれた。

その次の日、カワウソがキツネの家に行くと、キツネは天を眺めてばかりいて返事もしない。ごちそうどころではなく、カワウソは家に帰った。

次の日、キツネはカワウソの家にやってきてまたごちそうになった。

その次の日、カワウソがキツネの家に行くと、今度は下をじっと見たままキツネは動きもしなかった。

怒ったカワウソは次の日やってきたキツネに魚を食べさせず、魚の採り方を教えた。

キツネは教えられた通り、川に氷がはると、おしっこで穴をあけそこにしっぽをつっこんで魚がかかるのを待った。

寒さのなか夜中待って、しっぽはすっかり凍って引き上げられなくなったが、キツネはカワウソのいった通りきっと魚がいっぱいかかったのだと思い込んだ。

夜が明けて、そのうち子どもたちがキツネを見つけてとんできた。

キツネは「これは逃げねば大変」と、力んで力んでしっぽを抜こうとしたものだから、しっぽは根元からぷつんと切れてしまった。

キツネはやっとの思いで山に帰って行った。


☆今月のこの一冊は福音館書店の月刊誌「こどものとも 年中版」の2011年2月号として発刊されたもので、2000年1月号として出版されたものの再販です。
このものがたりは新潟県に伝わる昔ばなしだということです。
文体から、いろりを囲んだり、おひざに入れてもらったりしながら、大人から子どもたちに語られている情景やその声色や表情、周囲の空気までもが伝わってくるようです。
きっと長い時代にわたって、繰り返し語り継がれ聞き継がれてきたのでしょう。
ずる賢しこそうなキツネが、最後には間抜けな大失敗をするというおはなしは、他にもたくさんありますね。福音館の「キツネとねずみ」(子どものとも傑作集)などもそうですし、確かオールドアメリカンのお話にもビーバーとキツネのバトルのものがあったように記憶しています。
キツネは獲物をとることに関してとても巧妙で、頭もいいのですが、どうもおはなしの世界では最後の最後で自分の才に溺れたり、だまされたりしてポカをすることが多いようです。
キツネは山に住んでいるのですが、里に近いところまで姿を現すという動物であったため、人を化かしたり、悪さをしたり、また人に恩返しをしたりというイメージでその存在は語り種になってきました。
その人間と近しい関係にあったはずの本土ギツネも、今絶滅寸前と言われています。
カワウソもイタチの仲間であり、川岸などに棲んで水陸両方に出没する動物で昔はどこにもいたはずなのですが、今は絶滅したのではないかと言われほとんど人の生活圏には見当たらなくなってしまいました。
この昔ばなしのなかでいきいきと語られているキツネやカワウソと共に生きた生活はもう戻ってこないのでしょうか。
このような昔ばなしのなかでしか会えなくなってしまうのでしょうか。

2020年09月17日