もりのてぶくろ


八百板 洋子 ぶん
ナターリア・チャルーシナ え

福音館書店

 

しずかな森に葉っぱが一枚落ちていました。

「わぁ きれい」ねずみが葉っぱに手をあててみました。

「ぼくの手よりずっと大きいや」

うさぎがやってきて「まあ何てきれいな葉っぱ」

葉っぱに手をあてて見ます。

「わたしの手より大きいわ」

きつねが通りかかって素敵な葉っぱに手をあててみます。

「ぼくの手より大きいや」

バシンともじゃもじゃの手をのせたのはくまでした。

「ぼくの手よりずっと小さい」

お母さんと男の子が通りかかりました。

「いいもの見つけた。手袋みたい」

男の子がそっと葉っぱに手をあてるとぴったり。

男の子は葉っぱを拾っていきました。


☆この絵本は福音館の幼児絵本ふしぎなたねのシリーズです。
2004年11月号に「ちいさなかがくのとも」から発行されました。
「WHOSE GLOVE IS IT?」という副題がつけられています。
「だれのてぶくろ?」という感じでしょうか。
それが「もりのてぶくろ」という題で発行されたのは、チャルーシナさんの絵が「森の秋」そのものであり、八百板さんの文が「静かな秋の森」を伝えるのに余りあることばだったからではないかと思います。
森という響きのなかには、木々や花々、木の実、若芽、老木、動物や鳥、道や洞穴などのイメージがあり、それが生命や死、再生、光と闇、温かさと冷たさ、こわさと未知への憧憬などにつながって不思議な魅力と探求心をかりたてます。
その森のなかの片隅でおきた一枚の美しい落ち葉の静かな静かなものがたりがここに描かれています。
森に住む動物たちがみんな思わず手をあてたくなるほど美しく素敵な黄色く紅葉した落ち葉、その一枚の葉っぱがあるだけでものがたりになるような森の絵と、出来事がおきては引いていくという繰り返しの波はとても静かです。
そして最後には男の子がその落ち葉を大切に拾っていくというあたたかさと安定感が秋を尚更に引き立てています。
冬の森のなかでおじいさんが落とした手袋を軸に展開するウクライナ民話「てぶくろ」(福音館書店)があります。寒いなかでみんなが寄り合っていき最後はぱっと散っていくというにぎやかなそして劇的な物語ですが、ここに描かれた秋の森はもっと静かで叙情的です。
秋の日、お母様の体温を感じながら読んでもらえば子どもたちはその呼吸にぴったりと絵本の世界が呼応して静かな森を心おきなく探検することができるでしょう。

2020年09月24日