じろう ひとりで でんしゃにのる


夏休み、じろうはおじさんの家に遊びにいくことになりました。

初めて一人で電車に乗ったのでドキドキしています。

駅につくたびにお客さんが降りて、とうとうじろう一人になりました。

電車が山のなかのトンネルに入った時、窓から冷たい風が入ってきて、じろうは大きなくしゃみをしました。

トンネルを出ると、いつのまにかじろうの前にはおじいさんがニコニコと座っています。

おじいさんはじろうがもっていたおみやげのおまんじゅうとヤマモモを交換しようといって、窓からヤマモモやらすももナツグミ、それにクマイチゴをどっさりとってくれました。それに、滝の裏を通る時には、アユがたくさん窓から飛び込んできてそれをつかまえては笹に通してくれました。

おまんじゅうはおじいさんとじろうですっかり食べてしまいましたが、おみやげはいっぱいになりました。

長いトンネルに入った時、冷たい風が吹いてきてじろうはまたくしゃみをしました。

顔を上げると、おじいさんの姿はありません。

そして、じろうが降りる駅に着くまでおじいさんは帰ってきませんでした。

じろうが重たくなったリュックを背負って駅に降りると、おじさんが待っていてくれました。

不思議なおじいさんのこと、たくさんのおみやげのことを話すとおじさんはいいました。

「小さな子どもが一人で電車に乗っていると、ときどきそのおじいさんが遊びにくるらしいよ。明神山の神様だっていう話だよ」と。


* この絵本はこの8月に配本になった「こどものとも 年中向き」です。
初めて一人で電車に乗って旅に出るじろうの物語。
山のなかに深く入っていくという設定に、日常生活から遠ざかっていくという導入がされています。
初めてのこと、それも一人で、未知の世界へ。
どんなことがおきても不思議ではありません。
案の定、思いがけないことがおきます。
それが読み手にとっても夢とうつつの世界の境界線がないくらいの自然さで話が展開していくのです。モノトーンの絵がこの効果抜群。
突然のおじいさんの出現に「あなたは誰?」と怪訝に思い、おみやげのおまんじゅうを2人で食べてしまって「本当にいいの?」とハラハラ。
山の幸をいとも簡単におすそ分けしてくれるおじいさんの不思議な力には「手品みたい」と拍手したくなります。
そして、さいごのオチ、「小さな子どもと遊びたがっている明神様の神様かも」というところでは何やら背筋がゾクッと。
夏の暑い時に涼感を与えてくれること疑いなしの絵本です。
話はちょっとはずれますが、くしゃみをするとおじいさんが現れたり、消えたりするのですが、このくしゃみ。
私の周りにも、とてつもなく大きなくしゃみをする人がいまして、その度に飛び上がってしまうほどなのですが、何かその時自分の霊力が抜けて行くような気がするのです。
だから、くしゃみが不思議な世界への入り口という設定が大いに納得できるのです。
またまたはずれますが、このおはなしのなかで、じろうはおじいさんに勧めた水を入れたコップを返してもらっていないと気づくのですが、私も気になって捜し回りました。
そしたら「あった」というべきか「なくなった」というべきか。
でも絵の中にちゃんと描かれていました。捜してみてください。

2020年09月28日