ちょっとだけ


瀧村有子 さく
鈴木永子 え
福音館書店

 

なっちゃんのお家にあかちゃんがやってきてなっちゃんはおねえちゃんになりました。

買い物にいく時、今まではママと手をつないでいたのに、ママは赤ちゃんを抱いているので、なっちゃんはママのスカートをちょっとだけつかんで歩きました。

牛乳も自分でコップに入れて飲みました。パジャマも自分で着てみました。

髪の毛も自分でふたつにしばりました。

みんなママがやってくれるのを見ていたのでちょっとだけ成功しました。

公園に行くと、一人でぶらんこにのりました。

いつもはママが背中を押してくれたのに一人ではうまく動きません。

でもつまさきでちょんと蹴ったらちょっとだけブランコがゆれました。

公園から帰ると、なっちゃんは疲れて眠たくなりました。

ママの所に行って「ちょっとだけ抱っこして」といいました。

するとママは「ちょっとだけでいいの?いっぱい抱っこしたいんですけどいいですか?」とききかえしました。

「いいですよ!」なっちゃんはにっこり笑っていいました。

そして、なっちゃんはママのにおいをいっぱいかぎながらいっぱい抱っこしてもらいました。


* この絵本は何回読んでもなっちゃんのけなげな姿に胸を熱くします。
赤ちゃんが生まれて、「自分はお姉ちゃんになったんだ」という思いが、今までママにしてもらっていたことを何とか自分でしなくちゃあとなっちゃんに思わせます。
そしてひとつひとつがんばって、ちょっとだけ成功していくなっちゃん。
赤ちゃんのお世話で忙しそうなママにちょっと遠慮して孤軍奮闘していきます。
けれども、公園でおともだちのふみちゃんがママと一緒に遊びに来ているのに出会ったり、疲れて眠たくなってくると、どうにもママのあたたかい胸に包まれたくなります。
そして、「ちょっとだけ抱っこして」と遠慮しがちに頼むのです。
読者はここでグッと来てしまいます。
何てけなげなんだろう、何てやさしいんだろう、何て頑張っているんだろう。
小さななっちゃんの体をすっぽりと抱きとめてあげたい衝動にかられます。
でも、そのあとのママのことばに読者は急に緊張がほぐれ、あたたかい思いに包まれるのです。
「ちょっとだけ?」「ちょっとだけじゃなくていっぱい抱っこしたいんですけどいいですか?」
その時のなっちゃんの笑顔!。「いいですよ!」
「ママは自分を大切にしていてくれるんだ」という喜び、「今までと同じなんだ」という安堵感。
こちらまでうれしくなっちゃいます。
おねえちゃんになっても、また大きくなっても、おかあさんはいつも自分を抱きとめていてくれる存在。スカートのはじをつかんでいたい存在なのです。
そうやっておかあさんに抱きとめ受け入れられている実感をもつことは、自分をより大きくしていく力になります。
終わりのページには赤ちゃんを慈愛の目でながめているなっちゃんの表情と、裏表紙には、はりきって乳母車を押しているなっちゃんの姿が描かれています。
自分が愛されているという確信が自分自身を充たして成長させていくのだと思います。

また、なっちゃんが自分でさまざまなことをやろうとした時、今までおかあさんがやってくれたことをよく見ていたので、と描かれています。
そこにおかあさんとの生活の密度の濃さが表れているように思います。
女の子は特におかあさんと同じことをしたがる母子同一化ができやすいのですが、おかあさんのようになりたい、おかあさんと同じことをしたいという思いをもつことが、子どもを成熟に導いていくのだと思います。
幼い日、すべての子どもたちに母子の充実した幸せな関わりをして育って欲しいと願わずにはいられません。

2020年10月05日