三びきのやぎのがらがらどん
むかし、3びきのやぎがいました。
名前はどれも「がらがらどん」といいました。
ある時山の草葉で太ろうと山を登っていきました。
上る途中の谷川に橋があってそこを渡らなければなりません。
でも橋の下にはこわいトロルがいて渡るものはみんな食べてしまうのです。
3びきは相談しました。
まず小さいやぎが橋を渡りにやってきました。
トロルが「きさまをひとのみにしてやる!」というと
「まって。もうすぐ僕より大きなやぎがやってくるよ」といって見逃してもらいます。
次にやってきた2番目やぎも、「ぼくよりずっと大きいやぎがやってくる」といって橋を渡ってしまいます。
そして、最後にやってきたのが大きいやぎのがらがらどん。
トロルにとびかかるとこっぱみじんにして谷川に突き落としてしまいました。
それから山に登っていって、歩いて帰るのもやっとになるくらいおいしい草をいっぱい食べました。
* このホームページの「1冊の絵本」を始めてから9年。
ご紹介した絵本の数は今月で109冊になります。
その間、私は自分の独断と偏見の上ではありますが、幼稚園就園前のお子さんから就園している子どもたち向けの絵本をできるだけ新旧とりまぜてご紹介してきました。
そして、その履歴を確認してみたところ、何とこの「三びきのやぎのがらがらどん」がなくて、びっくりしました。
きっとこの絵本は私が取り上げるまでもなく、すでにたくさんの方たちが何代にもわたって読み継がれてきているだろうという私の謙虚さからこういうことになったのではないかと思います。
しかし、お正月に何の絵本をご紹介しようかなと思った時、「やっぱりこれでしょ」と手にとったのがこの本でした。
このお話は、北欧の民話となっています。
実際に北欧に行ってがらがらどんのふるさとを見てきた方に伺うと、この話はどこの家でも゛おとうさんが子どもたちに語ってきかせるもの゛でそれが代々語り継がれているというのです。
シンプルな話の展開、繰り返しのおもしろさ、悪いトロルとの一騎打ち。
確かに 何度きいてもドキドキしたり、ほっとしたりする昔話の語りです。
こわいトロルもおとうさんの迫力ある語りのなかで生き生きと躍動して伝わってくることでしょう。
しかし、どんなにこわくても最後はおとうさんの胸のなかに飛び込んでいかれる安心感のなかでのこわさです。
物語の内容も、深読みすればとてつもなく哲学的で、人のいきる過程を実に深く洞察し示唆しているものだと思うのですが、それが何気なく父から子へおもしろい物語として伝えられていくというところが昔話のすごさでしょうか。
父から子に、子から孫に、という語り継ぎは「文化」となって根付きます。
語り継ぐものがあるという文化は人としてのアイデンテティのもとになり得ます。
私たちもぜひ子どもに語り継ぐものをもちたい、お正月という非日常のなかでゆったりと私たちの歴史的存在を伝えていくものをもちたい、という思いが今月、この絵本を選んだ理由の大きなひとつです。
また、この絵本は、幼い子どもでも何回か読んでもらうとすっかり文を暗誦してしまうくらいことばが生きています。
これは、昔から語り継がれるなかで余分なものを削ぎ落とし、伝えるべきことばが力強く語られていることによるのでしようが、私はこの絵本の瀬田貞二さんの訳によるところが大きいと思っています。
洗練された無駄のない的確なことば、体が自然に動いてしまうようなリズム感、トロルとの一騎打ちのところの迫力。
瀬田さんのことばがすべて子どもの体のなかに入り込んで、子どもたちはまるで食べ物を食べているようにことばを食べているようです。
大人も子どもも一体となってことばのおもしろさを享受できる絵本、それがこの「三びきのやぎのがらがらどん」だと思います。