クリスマスの夜はしずかにね!
ジュリー・サイクス 作
ティム・ワーンズ 絵
なかお えつこ 訳
文溪堂
今日はクリスマスイブ。
サンタクロースはうれしくて、ウキウキしています。
トナカイのひくソリにいっぱいプレゼントを積み込み、,ネズミと一緒に、眠りについている子どもたちのお家をめざして出発です。
「ああ いそがしい いそがしい」といいながら地上に降りると、ネコが出迎えました。
思わず「メリークリスマス!」と大きな声でいうとネコがいいました。
「サンタさん、静かに。おこしちゃだめ」といわれました。
わかってはいるのですが、このサンタさん、うれしくてうれしくてたまらないものですから氷のかけらにつまずいてころんだり、プレゼントのびっくり箱から人形が飛び出したら愉快愉快と大笑いをしたり、床一面の飾りに足をひっかけてローラースケートにすっぽりはまり部屋の中をスケートしたり大きなくしゃみをしたり歌をうたったりとそのにぎやかなこと。
そのたびにその家のイヌやネコやトナカイに「サンタさん。しずかに。こどもたちをおこしちゃだめ」と言われてしまいます。
最後にはサンタさんは自分にむかって「サンタさん、しずかに。こどもたちをおこしちゃだめ」といいきかせました。
プレゼントをみんな配り終わってやっと家にもどったサンタさんはくたくた。
あたたかいココアを入れてスリッパにはきかえ肘掛け椅子に座ると
「ぐおー、ぐおー」と大いびきをかいて眠ってしまいました。
トナカイたちも「もぐもぐ むしゃむしゃ」と晩ご飯の干草を食べ始めました。
すると,ネズミがいいました。
「トナカイさん、しずかに!サンタさんをおこしちゃだめだよ!」
*楽しいクリスマス。
子どもの一番の楽しみはもちろんサンタクロースからもらうプレゼント。
サンタさんが来るのを待っているのは子どもなのに、この本には子どもは出てきません。
この本はサンタさんのお話なのです。
サンタさんは最初から上機嫌。
年に一度のクリスマス。
子どもたちと会える喜びの日。
子どもたちの喜ぶ顔を思い浮かべながら自分の方がウキウキワクワクしているのです。
プレゼントをもらうのは勿論うれしいこと。
でもプレゼントって、する方もうれしいのです。
相手のことを思い、相手の喜こぶ顔を思い浮かべながらプレゼントを作ったり、選んだりしていると何だかとてもうれしくなってウキウキしてきます。
それもクリスマスという恵みにあふれた時、みんなで喜びあう時に心と心を通わせ互いに互いを思いやりながら真心をやり取りするということは何と幸せなことでしょう。
サンタさんはきっとそんな幸せな思いで、子どもたちにプレゼントをしてくれるのでしょう。
人間味あふれるこの絵本のサンタさんは、子どもたちにサンタクロースをすぐ身近かに感じさせてくれるでしょうし、クリスマスの喜びや楽しみをより大きくしてくれること思います。
また、このお話では、子どもたちがとても大事に守られているということを感じます。
子どもの周りにいる,ネコやイヌたちがまるで子どもの番人のように子どもの眠りを守ります。そして、子どもにサンタさんの姿が見えてはいけないように気をかけるのです。
子どもにとってサンタさんは目に見えないものを信じる力を与えるもの。
サンタさんは子どもが目で見てしまったらいけないのです。
そのサンタクロースの真実、そしてクリスマスの秘儀をしっかりと描ききっているように思います。