おいしいおと


三宮麻由子 ぶん
ふくしまあきえ 絵

福音館書店

 

さぁこれからお食事です。

食卓の上にはおいしそうなごちそうがならんでいます。

どれからいただきましょうか。

春巻きからにしよう。

カコッ ホッ カル カル カル カル

あぁ おいしい。

ほうれん草は

ズック ズック ズック ズック ズック ズックス

あぁ おいしい。

ごはんも、わかめも、味噌汁も、ウインナも食べるとおもしろい音がするよ。

かぼちゃはモモッ ポフ ポフ ポフ ポフだ。

レタスもトマトも音がするよ。

さいごのデザートはショッ ショッ ショッ ショッ ショッそれにサシュ スイーン。

あぁおいしかった。ごちそうさま。


* 幼児絵本ふしぎなたねシリーズの一冊です。

この絵本を見て、まず感じたのがこの日のこの家の食卓の豊かさです。

わかめの味噌汁にごはん。カボチャの煮付けにほうれん草のおひたし。

それに、春巻きとレタスとトマトとウインナの盛られた一皿。デザート。

決してレストランのメニューのような豪華なものではありません。

しかしどの品にも色どりがあり、おかあさんの手がかかったあたたかさを感じさせるものばかりです。

そして、このお料理を子どもがひとつずつ口にいれてはその音をききながら楽しんで「あぁおいしい」といって全部を満足して食べるのです。

本当においしそうに食べています。

このお家はおとうさんとおかあさんとそして子どもの3人家族なのでしょう。

それぞれの分が盛り分けられているお皿を見ると、大人も子どももまったく同じメニューです。ただ子どもは大人の半分の量に盛り付けられています。

こうやって食べ物の音をきき、ゆっくりと味わいながら満足して食事をしている子どもの周りには、やはりみんなで食事をすることを喜び楽しんでいるお父さん、お母さんの姿が見えてきます。

このカボチャはおばあちゃんが作って送ってくれたのよ、などという会話まで聞こえてきそうです。


今、飽食の時代にあって、子どもは3度3度の食事を喜んで「あぁおいしい」といって食べているでしょうか。

何とか子どもが食べてくれるように、という思いから子どもが喜びそうな色や形、きつい味付けのファストフード的なものが食卓を占拠していないでしょうか。

そして、同じ食卓についていても、テレビをみんな見つめながら、会話もなく、もちろん野菜やおかずのおいしい音に気づきもしないでいるのではないでしょうか。

ひとつひとつの食物がみんな違う音や味をもっていて「おいしい」と感じながら喜んで食事をしている子どもがどのくらいいるでしょうか。


そんなことを考えながらこの絵本をもう一度読むと、子どもが健やかに豊かに育っていくときの原点がこの食卓にすべて包括されているのではないだろうか、とさえ感じてしまいました。

2020年10月19日