たろうのともだち


村山佳子 さく
堀内誠一 え

福音館書店

 

あるひ、こおろぎは庭を散歩していました。

散歩は快適でしたがひとりぼっちがつまらなくなって、ひよこに声をかけました。

でもひよこは羽根を広げて「つっついちゃうぞ」とむかってきました。

「たすけて」というと、「じゃあけらいになれ」というのでこおろぎはひよこのけらいになって歩いていきますと、ねこにであいました。

ひよこは挨拶をしましたが機嫌の悪いねこは、「おまえなんか、ひっかいちゃうぞ」とむかってきました。

そこで助けてもらうかわりにこおろぎとひよこはねこのけらいになりました。

こんどはねそべっている犬にあいましたので、ねこが挨拶をしようとすると「おまえなんかつかまえてかみついちゃうぞ」といいました。

許してもらうかわりにみんなは犬のけらいになりました。

犬を先頭にしてみんなで列になって歩いていくと戸口の前にたろうがいました。

犬が「やあ、たろうさんこんにちは」と挨拶をするとたろうは元気な声で「ああこんにちは。ぼくも仲間に入れて」といいます。

犬が「じゃあぼくのけらいになる?」といいますと「けらいなんてぼくいやだ」ときっぱりいいました。

すると、ねこもひよこもこおろぎも「けらいなんてぼくもいや!」といいました。

「じゃあ みんなともだちになろうよ」とたろうがいうと、「ともだちだぁ。なかよしだあ。」といいながらみんなみんなともだちになって庭を散歩しました。



* たろうのシリーズのなかの一冊の絵本です。

たろうのシリーズは「たろうのばけつ」「たろうのひっこし」「たろうのおでかけ」それに「たろうのともだち」があって、どれも子どもたちに大人気の絵本です。

この「たろうのともだち」も1967年に初版本が出ていますので、もう40年以上もの間、子どもたちに読み継がれていることになります。

なかには親から子どもへ、子どもから孫へと世代を超えて読まれている家庭もあります。

今から40年前、このシリーズを手にした時、まずその絵とものがたりのモダンさ、明るさに魅入られました。

都会的な感じがしたのです。

そして40年がたって、今この絵本を開いても、その当時の感覚はまったく色あせていないのが不思議なくらいです。

この「たろうのともだち」は、たろうくんとシリーズおなじみの動物たちが登場しておはなしが展開していきます。

前半、動物たちが次々にともだちにはなれないで、けらいにさせられていく場面が続きます。

ともだちになりたいと挨拶をしても返してもらえない、力の強いものが弱いものをけらいにしていくというちょっと胸がしぼんでしまうようなそんな展開です。

でも最後にたろうが出てくるとそれが大きく転換していくのです。

犬が挨拶をすると、たろうは機嫌よく「やあ、こんにちは。みんなおそろいでさんぽかい。ぼくもなかまにいれておくれよ。」とことばをかえすのです。

ここで聞き手も読み手もほっとします。

初めてよびかけに答えてもらえた、という安堵感です。

そして、「だれかのけらいではなくみんなでともだちになろう」というたろうの提案は

動物たちのそれぞれの思いを自由に表現させていきます。

いきいきとした関係性によみがえっていくのです。

そして、「みんなみんななかよしのともだちになってにわをさんぽしました」と本を閉じると、ほのぼのとした満足感と「あぁよかった」という安堵感で満たされるのです。


子どもたちと一緒にいますと、子どもがおともだちをつくる、おともだちになるということはそんなに簡単なことではないということを感じる時があります。

ある時には力関係で相手を支配下においてみたり、おもねてみたり、いいなりになったり抵抗をしてけんかになったりする時があるのです。

しかし、子どもはしなやかで何かのきっかけでその関係が逆転したり、さっきまでおおげんかをしていたのに次の瞬間には寄り添って仲良く遊んでいたりと、めまぐるしい変化をすることがあります。

ただことばで「なかよくしなさい」「おともだちになりなさい」と大人がいうのは簡単ですが、子どももなかよしになるためにさまざまな葛藤をしながら相手を受け入れていくのだと思います。

子どもたちのそんな生きている体験を十分にゆったりと支えながら、互いに快適な楽しい関係性を築いていかれるようにしていかれたらいいなと思います。

2020年10月23日